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定型うつ病と非定型うつ病

 「非定型うつ病」という用語はまだ公認(DSMにしろICDにしろ)されてはいませんが、トピックスになりつつあります。差し当たって、食欲亢進による過食それに伴う体重増加、過眠といった症状のみ特徴として挙げておきます。

 もし定型的症状 (ほぼここに網羅されています)を示さないうつ病を非定型うつ病だとするならば、「症状とはなにか?」ということが問題になってきます。
○精神神経雑誌2010年第112巻第1号に大前晋先生の「非定型うつ病という概念-4種の定義-」は包括的な総説です。
○犬山病院の精神科部長、日々野良弘先生の書かれたものが読みやすいです。

 非定型うつ病という言い方があるということは定型うつ病というものがある筈であるとするのはもっともなはなしです。症状レヴェルでは上述の過食とそれに伴う体重増加、過眠(「身体が鉛のように重い」といった譬喩的表現でなくとも「身体のどこかが重い感じがする」と訴えるひとは日本ではそれほど多くないように思います)といったものが非定型であるとするのはさして問題はないのではないでしょうか、しかし他人からの拒絶に対して過敏であり、パーソナリティに問題があるといった指摘は何人かの精神科医に問題視されています。最近精神神経雑誌にこの『非定型うつ病』についての論文が掲載されましたが、DSM, ICDの記載に無理があることは確かで、少なくともこれをひとつのまとまった疾病単位とすることはこれからもなされない可能性はあります。「双極性感情障害をめぐる動向へ」

 第一に、うつ病になりやすい病前性格というものがあるとして、これをかりにテレンバッハのいうティープス・メランコリークスであるとしても、ICDやDSMにおける定型というのが症状レヴェルなのか人格レヴェル(それが、厳密にテレンバッハのいうメランコリー型に当てはまるとはいえないことは確かです)なのか、その両方なのか、あるいはどちらでもないのか判然としません。そして時代とともに、他の病気でもそうですが、病態というものは変って行くものなのです。極論をいう方は、いまではうつ病のほとんどが非定型うつ病だとまで言います。

小生は、過食、体重増加と過眠を主訴と主徴とする患者さんをまず症状レヴェルで改善することに務め、パーソナリティの問題はご本人が問題意識をお持ちなら、分析してゆことにしています。

 日本語では、大前先生が書かれた日本精神学会の論文は現在の精神医学の趨勢を概観するのに役立つものとして認めますが、ただし英語圏でもドイツ語圏でもこのような趨勢に批判的立場をとる学者もいることをお断りしておきたいと存じます。またコンパクトにまとめられた邦文での記述として犬山病院の診療部長であられる日々野良弘先生の文章は読みやすくバランスが取れているものとして一読する価値があるものと存じます http://www.okeikai.or.jp/bu_sinryo/rm2_466.htm

 バランスをとるためにAngstとAntonijevicというドイツ語圏の研究について簡単に紹介いたします。

 Angst(Jules Angst、チューリッヒ大学の教授で高名な精神科医です)等は、膨大な症例の長期にわたる観察をもとに
Therapie der affektiven Störungen. Psychosoziale und neurobiologische Perspektiven.
by Jules Angst, Matthias Backenstraß, Doris Bredthauer, Dietrich von Calker, Franz Caspar, Rainer Danziger, Heinz Böker, Daniel Hell
July 1, 2002, Schattauer, F.K. Verlag

というタイトルの本を著しを上梓しています。

■かれ等によれば、うつ病は男性の患者さんより女性の患者さんのほうが4倍多いとしています。
■非定型うつ病についての記述もみられます。例えば、ドイツ語ではÜberempfindlichkeit auf Zurückweisung、英語で"rejection sensitivity"に当たります - についてAngstはこうした記述は症状というより人格上の特徴なのだから、他の症状、過食(とそれに伴う体重増加)、過眠等と同列に扱うのはおかしい、と御説至極ごもっともです。


 Irina Antonijevicというベルリン大学付属病院精神科所属の精神科医が2004年6月21日に発表した"Geschlechtsspezifische Unterschiede der schlafendokrinen Regulation und deren Bedeutung f?r die Pathophysiologie der Major Depression"(http://edoc.hu-berlin.de/habilitationen/antonijevic-irina-2004-06-21/HTML/front.html)は示唆に富むもので、「非定型うつ病」という疾病単位はまだ確立されていない(現在においてもそうです)、もしそういうものが想定できるとしても「非定型的症状を呈するうつ病」とは区別したほうがよいとしています。いずれにせよ、「非定型うつ病」という診断については、特にDSMやICDを用いた短絡的な診断(日本においてはまさにこの問題がわれわれメンタル系専門医を悩ませます。何らかの保険請求病名を診療録に書かなければ、保険診療を行なうことができないのです)は控え、暫く経過を観てから慎重に確定しなければならない - 先の「撥ねつけられることへの過敏さ」は初診の段階では捉えにくいことですからなおさらだ - とは我が意を得たりです。

~この記事は書きかけです~

 

双極性感情障害との関連性についても大前先生は諸家の研究を紹介なさっていらっしゃいますが、確かに双極性障害と診断した患者さんにおいて、この「拒絶過敏症」に相当する様態を呈するエピソードがみられることがあります。